将棋の海外伝播などについてのブログ

外務省海外交流審議会第5回総会の議事録など

　11月9日付で、外務省のホームページに、海外交流審議会の第5回総会の審議会会長サマリー（ポップカルチャーの文化外交における活用）と、ポップカルチャー専門部会報告書が開示されていた。

　専門部会のほうでは、「ポップカルチャー」の定義について突っ込んだ議論が行われた模様である。その定義に関する部分を引用する。

本部会において、「ポップカルチャーの文化外交における活用」を議論する上で問題になったのは、「ポップカルチャー」という用語についてであり、アニメ、マンガ、J－POP、ファッション等の様々な文化を「ポップカルチャー」という言葉で一括りにすることについて疑義があるとの意見が数多くあった。

　本部会においては、これら意見を良く検討、整理し、「ポップカルチャー」を「一般市民による日常の活動で成立している文化」として捉え、「庶民が購い、生活の中で使いながら磨くことで成立した文化であって、これを通して日本人の感性や精神性など、等身大の日本を伝えることができる文化」として考えることとした。この考え方によれば、浮世絵、焼物、茶道などは、其々の時代における当時の「ポップカルチャー」であったと言うことができる。

　文化外交への活用にあたっては、こうした「ポップカルチャー」の中で、特に新たな時代の流れを切り開く最先端の分野で、広く国民に受け入れられ、強い浸透性と等身大の日本を表す思想性を有するものを対象にすべきであり、具体的には、アニメ、マンガ、ゲーム、J－POPのほか、ファッションや食文化等の分野が対象になると考えられる。

　「庶民が購い、生活の中で使いながら磨くことで成立した文化であって、これを通して日本人の感性や精神性など、等身大の日本を伝えることができる文化」という定義であれば、将棋も当然このポップカルチャーのひとつとして数えられると考えられる。そして、将棋は、Naruto というアニメ、マンガで海外に発信され、任天堂の「だれでもアソビ大全」の海外版の Clubhouse Games というゲームソフトでこの秋から、欧米で発売されている。

　専門部会報告書には、４．具体的取組に関する提言　があり、かなりの紙幅を割いている。筆者が重要と思うところをピックアップする（太字による強調は筆者による）。

（3）「ポップカルチャー」への関心を日本全体への関心に繋げる

（イ）個別分散的に海外へ広まった日本の「ポップカルチャー」を体系的に整理するとともに、日本文化全体の中に位置付け、その背後にある日本人の感性・考え方を海外に論理的に説明することに取り組む。

（ロ）近年、アジア・欧米の大学において、「ポップカルチャー」等の現代日本文化や日本語を学ぶために、日本関連学科への入学を希望する学生が増加しているところであるが、諸外国における現代日本文化の研究や学術成果には拡大する余地が十分にあると考えられる。このため、日本の「ポップカルチャー」の研究に対する助成制度の設置を奨励するとともに、海外の研究者や学生の交流を活性化し、現代日本に関する研究を促進する。また、当該研究成果を海外の大学等の研究機関に提供し、当該国における日本理解に繋げる。

（ホ）日本の「ポップカルチャー」への関心から、それ以外の日本に興味を持った若者等が容易にアクセスできる、日本紹介コンテンツを準備する。例えば、「ポップカルチャー」ファンの大半は、インターネット利用者であると予想されることから、Webサイト上に日本文化の総合紹介サイトを用意することも有効と考えられる。また、日本の情報を幅広く放送しているテレビ国際放送（英語）で「ポップカルチャー」や「ポップカルチャー」作品の背後にある日本人の感性や考え方を紹介する番組[外務省4]を放送することにより、同チャンネルの視聴者数を確保し、アニメ・マンガと併せて日本関連情報をより多くの人に発信することも一案と考えられる。

　この、「日本文化の総合紹介サイト」というのは、誰がどのように開設するのか具体的になっていないが、そのようなものができるのであるとすれば、そのサイトの紹介項目に将棋が加えられるよう、将棋界は努力をするべきと筆者は考える。

　また、専門部会報告書によれば、「ポップカルチャー勉強会（仮称）」という情報交換のサロンのような場もできるようだ。将棋が海外に広まっていくことに関心がある方は、ぜひ、冒頭のリンクから原文にあたられたい。

外国語の Wikipedia で Naruto と Shikamaru の項目を見てみる

　インターネット上には Wikipedia という、大変重宝する多言語の百科事典があり、日々、項目の内容が充実され、また、項目数自体も増えている。既存の百科事典と違うところは、現代的な現象、事象が項目として載っていることだ。なので、海外で人気の出た、アニメ・マンガのタイトルや時には登場するキャラクターの項目まで外国語版の Wikipedia には追加されることがある。

　英語の Wikipedia には、Naruto の項目も、Shikamaru の項目も本日現在存在している。両者とも英語版だけでなく、ほかに、Naruto は33ヶ国語、Shikamaru は7ヶ国語の Wikipedia で項目があることが、当該項目のページの左側のメニューの下の方の "in other languages"  の欄を見るとわかる。

  Naruto の項目には、shogi という単語は見当たらない。だが、shikamaru の項目には、shogi という単語がかなりある。本日現在の説明で、shogi という単語を含んだ部分を引用する（太字による強調は筆者による。なお、Wikipedia の項目の説明は、削除されたり、改変されることがあることをお断りしておく。本日現在と書いているのはそのためである）。

Shikamaru is the sort of unenthusiastic person who would rather take a nap than get excited over something and likes the thinking games that older men are usually into, such as Shogi and Go.

Shikamaru is a brilliant strategist, and though his sensei, Asuma Sarutobi, often plays Go and Shogi against Shikamaru; Asuma has never actually managed to beat him.

Shikamaru: "Marry someone who is not ugly, or beautiful. Have two children, first a girl, then a boy. Retire after his daughter is married, and his son has a job and spend the rest of his life playing Shogi. And to die before his wife."

His hobbies are napping, Shogi (a Japanese game similar to chess) and cloud watching.

Later, he played shogi with Asuma. They talked about who the pieces represented. Shikamaru was said to be the knight, a piece that does not possess much power, but makes up for it by taking advantage of its unique ability to move over and around the enemy.

　英語の Wikipedia で Shikamaru の項目を参照した人は、上記のように、shogi という単語が使われた部分を読むことになる。また、Wikipedia の英語版には shogi の項目もあり、そこへもハイパーリンクされているので、shogi　がどんなゲームか知らなかった人でもすぐに shogi とはどんなゲームだかわかるようになっている。

　Shikamasu の項目の別の言語の説明も眺めてみた。shogi という単語が見えるのは、スペイン語の shikamaru の項目とポルトガル語の shikamaru の項目。これも引用してみる。

　最初はスペイン語版より。

Shikamaru es una persona poco entusiasta que preferiría tomarse la siesta que emocionarse por algo y le gustan los juegos de estrategia que gustan a los hombres mayores, como el Shogi (ajedrez japonés) y el Go.

Shikamaru es muy bueno al hacer estrategias y a pesar de que su sensei, Asuma, juega Shogi contra Shikamaru muy seguido, no le ha podido ganar. Es más,

Shikamaru es muy bueno al hacer estrategias y a pesar de que su sensei, Asuma, juega Shogi contra Shikamaru muy seguido, no le ha podido ganar.

　続いて、ポルトガル語版から。

Depois de dois anos e meio, é um dos organizadores do Chuunin Shiken, junto com Temari. Sarutobi Asuma chama Shikamaru para jogar shogi.

　本日現在は上記がすべてだが、時間がたつにつれて、shikamaru の項目はさらに多言語化されるし、また、shogi という単語もその説明のページに載っていくものと思われる。

　このように、Naruto のキャラクターの Shikamaru によって、shogi という言葉だけではなく、shogi というゲームがどんなゲームであることが、Wikipedia で Shikamaru の項目を参照した人にかなり正確に伝わっている可能性が高い。

　将棋界では、毎年9月に、将棋の普及に尽力した個人、団体に大山賞が贈呈される。筆者は、アニメのキャラクターに授賞することがあってもいいのではないかと思っている。

GoogleのAdvanced Searchで Naruto効果を検証する

　US本家の Google の Advanced Search では、検索されるコンテンツの言語を指定することができる。現状、普通に "shogi" といれて検索すると、日本語のコンテンツも検索結果として表示されてしまう。それを防いで、特定の言語だけの結果を検索できる機能が用意されているわけだ。

　ここで、言語を English に特定して、次のキーワードで検索をした結果へのリンクを並べてみたい。並べている順は、本日このエントリーを書いている現在の検索で、検索結果の件数が多い順である。（google では大文字と小文字の違いは無視される。また、二語以上のキーワードは　AND 検索される。）

shogi --- 約751,000 ページ （shogi という単語を含む、Google で検索可能なページの総量を知るためのキーワード）

shogi king --- 約87,500 ページ（将棋の一番大切な駒について記述しているページが検索されると想定したキーワード）

shogi naruto ---　約59,500ページ（Naruto 効果を測定するためのキーワード）

shogi habu --- 約20,900ページ（羽生三冠について記述しているページが検索されると想定したキーワード）

shogi hikaru --- 約16,300ページ(「ヒカルの碁」絡みで将棋の記述があるページが検索されると想定したキーワード）

shogi checkmate --- 約12,400ページ（将棋のゲームの目的を記述しているページが主に検索されると想定したキーワード）

shogi drop capture --- 約12,100ページ（将棋の特徴の、を説明しているページが主に検索されると想定したキーワード）

shogi "how to play" --- 約10,600ページ（将棋の遊び方を説明しているページが主に検索されると想定したキーワード）

shogi meijin --- 約9,520ページ（将棋の名人について記述したページが検索されることを想定したキーワード）

shogi watanabe --- 約776ページ（渡辺竜王について記述しているページが検索されることを想定したキーワード）

shogi tanigawa --- 約647ページ（谷川九段について記述しているページが検索されることを想定したキーワード）

shogi ranma --- 約588ページ（「らんま1/2」絡みで将棋について記述されたページが検索される事を想定したキーワード）

shogi moriuchi --- 約522ページ（森内名人について記述しているページが検索されることを想定したキーワード）

shogi segawa --- 約390ページ（瀬川四段について記述しているページが検索されることを想定したキーワード）

shogi gekka --- 約127ページ（「月下の棋士」絡みで将棋についての記述がされたページが検索されることを想定したキーワード）

shogi shion --- 約66ページ（「しおんの王」絡みで将棋についての記述がされたページが検索されることを想定したキーワード）

　上記の結果を見ていえることは、shogi の検索結果が 751,000ページ、shogi naruto の検索結果が 59,500ページということは、shogi を含む google で検索可能なネット上のページの約8％が Naruto 絡みのコンテンツということになる。そして、それは、羽生三冠絡みのコンテンツの3倍弱の多さの量である。また、ルールの説明や、将棋の特徴を説明したコンテンツの5倍前後に相当することになる。

　また、特筆すべきは、「ヒカルの碁」絡みで将棋について記述されたページの多さである。「月下の棋士」「しおんの王」とは桁違いであることがわかるばかりか、単純にページの量だけで言うと、「ヒカルの碁」に勝てる現実の棋士は羽生三冠しかいないことになる。

　英語の Wikipedia でヒカルの碁の項目を参照してみよう。確かに多くの shogi という単語が使われているのがわかる。本日現在、Hikaru no Go の項目には以下の shogi という単語が使われた文が載っている(太字による shogi という単語の強調は筆者による）。

Despite Kaga's skill at Go, he prefers Shogi to Go, due largely to Toya Akira's dominance when they used to play together. He returns to his school Shogi team, leaving Hikaru and Tsutsui to search for another boy so that they may play as a team in the summer middle school tournament.

Tetsuo Kaga (加賀 鉄男 Kaga Tetsuo) - President of Haze Middle School's Shogi club. Kaga hates Go and prefers Shogi better because, his father forbade Shogi and forced him to play Go from an extremely early age, and he could never please the old man no matter how well he did.

　つまり、「ヒカルの碁」の海外への将棋普及への貢献度は、アニメ・マンガとしては、「Naruto」の次に高いことは間違いがなさそうである。

　shogi habu や、shogi meijin の検索結果が、shogi naruto の検索結果の半分にも満たない現状をどのように捉えたらいいのだろうか。筆者には、何か、どこかの大事なネジがはずれてしまっているような気がして仕方がない。

（注、「らんま2/1」について忘れていたので、後から shogi ranma の検索結果を追記しました）

サンフランシスコの竜王戦時に初めて将棋を覚えた人の日記を発見

　自分の張っている情報網にかかるのがかなり遅れたが、サンフランシスコで行われた竜王戦の時に、着物を着て、NHKの取材を受け、将棋を覚えて初めて指してみた、プロフィール上はジョージア州の女性の日記を発見した。それが以下。

Stress and Shogi! (Tuesday, Octoｒber 10)（英語）

　彼女はおそらく、和太鼓を習っているか、和太鼓のファンなのであろう。（サンフランシスコの日本将棋連盟支部は、和太鼓を広めている方がやられていると何かで読んだ）。竜王戦のために、ジョージア州から飛行機で飛んできたようである。そして、駒の動きを習い、初めての対局をし、かんざし姿でNHKのカメラに映されながらインタビューを受け、といった矢継ぎ早の体験にストレスを覚えながらも、楽しい一日だったと振り返っている日記である。

　彼女が shogi についてどう思ったか書いてないのが少し残念だが、この日記を読んだ彼女の友人の中には、shogi というゲームがあること、テレビが取材をしていたこと、などが印象に残る方が出てくるであろう。

　ブログが普及したために、多くの方が自分の体験を文字にして発信を始めている。それは日本だけのことではない。自分の周りの人や、自分のブログの読者がまだ多分体験したことがないであろうことを自分が体験した場合、それは、ブログの書き手にとっては、自分の読者にとって「へえー」と思ってもらえるエントリーを作れるオイシイ体験であり、それについて書くのはごく自然な流れである。逆にいえば、自分の体験を発信しているブロガーに将棋を初体験してもらえれば、将棋が海外ではまだそんなに広がっていないだけに、それをオイシイ体験としてブログに書いてもらえる確率は極めて高いことになるのではないか。海外への将棋を広めることを考えるときに、一般のブロガーを戦略的に位置づけることの重要性が増してきた、と筆者は考える。

Naruto効果についてのおさらいと最近の情報

　さまざまな方の支えがあって、このところアクセスが増えている（ありがとうございます）。先日のエントリーで「Naruto 効果」「Clubhouse Games 効果」という造語を唐突に使ってしまって少し反省している。前から当欄を読まれている方ならよくお分かりと思うが、最近読み始めた方にとってはわかりにくかったと思う。本エントリーでは、筆者が 「Naruto 効果」と呼んでいる現象についておさらいするとともに、最近得た情報も紹介したい。

　海外で、将棋が認知されたり、指されたりするようになるのに、将棋が取り上げられているアニメやマンガが現地で放映されたり、出版されたりすることが大きな役割を果たしていると筆者は感じている。囲碁では、「ヒカルの碁」が内外で囲碁普及、とくに、囲碁に入門するきっかけとなるのに効果があった（そして、今でも続いている）。将棋の場合は、「ヒカルの碁」ほどの効果はないものの、その役割を果たしているのは、「月下の棋士」でもなく、「しおんの王」でもなく、実は「Naruto」である。「Naruto」は、岸本斉史氏によって週刊少年ジャンプに1999年に発表されて人気を博し、TVアニメ、アニメ映画にもなり、日本だけでなく、多くの国で楽しまれている少年忍者の成長物語を基調とした作品である。簡単には覚えきれないほどの大勢の忍者のキャラクターが登場するが、その中の１人に、奈良シカマルという、非常にIQが高いのだが、生来の面倒くさがりやであり、そうなんだけれども結構モテる、という人物造形がなされたキャラクターが重要な脇役として登場する。そして彼の趣味が将棋なのである。

　シカマルが将棋を指しているシーンは、「Naruto」の中ではごくわずかである。ただ、「Naruto」のファンの中には、少なからずシカマルのキャラクターに心酔しているらしい人がたくさんいて、シカマルの好きな shogi というゲームに興味を持ってしまう人がどうやら多いらしい。

　と言葉で説明してもなかなか実感が沸かないと思う。百聞は一見にしかず、5/29に書いた当欄の次のエントリーを見ていただきたい。

シカマルとアスマのコスプレで将棋を指す海外のひとたち　－－－　シカマルに扮したファンが将棋を指している写真へのリンクである。

　アニメ・マンガファンは、上記のリンクで紹介した写真に見られるような形で、シカマルが好きな将棋というゲームを楽しんでいるケースがある。もちろん、コスプレに至らなくても、将棋というゲームそのものに興味を持つ人はもっといるはずである。筆者はネット対局中に 「Naruto」を見て将棋をやってみたくなったというポルトガル人と実際にチャットしたことがあるし、「Naruto」を通じて将棋を知ったモロッコ（フランスの植民地だったことがあり、フランス語が通じる）の高校生が、興味が高じてフランスの将棋フォーラムに参加した事例は当欄でも紹介した（「Narutoで将棋を知ったモロッコの高校生」　6/7付け)。

　続いて、最近発見した「Naruto効果」の重要な例を１つ。是非とも次のリンク先を開いていただきたい。

Analysis of Shougi board (with visual explanations) - Naruto Forums 

　上記のページに行かれたら、Spoilerという文字の隣にある Show と書いてあるボタンを上から三つそれぞれ押してみてほしい。最初のボタンで、駒の動きの説明の図解が表示され、二つ目のボタンでは盤面に、駒、キャラクターの顔、駒の英文表示がかわるがわる表示される図が現れ、三つめのボタンを押すと、駒の動きの複数のシナリオが盤面上で展開される（盤面が変わるまで10秒程度かかるかもしれないので、辛抱強く図面をみていただきたい）。

　このエントリーを起こした、ユーザ名Mizura さんは、一つ目の Show ボタンの直前に、英語 Wikipedia の shogi の項目にもリンクを張っている。なので、上記で紹介した盤面だけでなく、「Naruto」 のファンでこのページを訪れた方は、Wikipedia の shogi の説明を読むことになる。

　われわれのまったくあずかり知らないとことで「Naruto」が将棋を広めてくれている。Shogi という単語の含まれる「Naruto」 絡みのコンテンツがこのところ毎日のようにネットに載せられ、累積されていっているのを筆者は確認している。それを読んだファンが、shogi に興味を持って調べ始める。これが筆者が「Naruto 効果」と呼んでいる現象の正体である。

週刊将棋「棋士のブログ大特集」読後の雑感

　週刊将棋の１１月１５日号に「棋士のブログ大特集」という見開き２面の大特集が載った。

　週刊将棋の使命は、将棋界の今を伝えることだと思っているので、今現在ブログを開設している棋士のブログを網羅的に紹介するのが中心になるのはわかる。それは当然のことである。

　ただ、本文の囲みの「ブログとは？」にもあるように、ブログとは「日記形式」のものである。というか、日記文学そのものである。日記文学は歴史的な史料ともなりうるものであり、棋士のブログは本人が意識している、していないにかかわらず、将棋界の歴史を綴っていることになる。日記文学は過去の文章をさかのぼって読めるところにその醍醐味があり、それはブログも同じだと筆者は思っている。そういう史料的な部分があることについても触れてほしかったと思う。

　ところで、ブログはおろか、インターネットという言葉もなかった時代に、棋士の日記が公刊されていたことをどのくらいの方が知っているであろうか。その日記とは、山田道美将棋著作集の第七巻「日記」（リンク先はAmazon.co.jp）である。棋士のブロガーの方なら、大山・升田という当時の巨大な壁を崩すため、序盤の研究に心血を注ぎ、36歳で夭折した若手の棋士が、どういう悩みを持ち、何を考えていたのかを綴った日記は、時を越えて、大いなる関心と共感を持って読めるのではないかと思う。筆者は何年か前に図書館で読んだが、感動した覚えがある。

　と、ここまで書いてきたところで、ある方の2005年7月10日のブログエントリーを掘り起こしてみたい。リンク先を読んでいただければ、筆者が「過去の文章をさかのぼって読めるところにその醍醐味がある」と考える理由は納得していただけるのではないかと思う。ブログを読む楽しみは、新着エントリーを消費することだけではない。

Tony Hosking さんの新刊 "Classic Shogi"

　いけない、ご紹介するのを忘れていた。

　イギリス人で、The Art of Shogi, Habu's Words などの英語棋書がある Tony Hosking 氏が新刊を出した。

Classic Shogi

  将棋４００年にわたる歴代の名人（つまり江戸時代からということ）の棋譜と解説が８０局収められている。いの一番に載っているのが、先手大橋宗桂対後手本因坊算砂戦。一番最後に載せられているのが、本年の名人戦第二局、森内名人対谷川九段戦である。名人というのが４００年の歴史を持った伝統ある地位であることが英語で活字にされたことになる。羽生三冠が序文を寄せている。その最初のパラグラフだけ引用。

Once again, I am very pleased to know that Tony Hosking, my friend, is publishing a new shogi book.  I am also looking forward to understanding how shogi comes across to English-speaking people who value history and tradition.

　その序文の最後のほうには、堀口弘治七段の協力があったことが記されている。

　出版元は THE SHOGI FOUNDATION。リンク先を見ると、いつから始めたのか定かでないが、本だけではなく、ラミネート製の Portable Shogi Set も販売している。

　この Classic Shogi の発行で、前の The Art of Shogi, Habu's Words（日本語では浅川書房より「上達するヒント」として発売中、棋書ミシュランの同書レビューへのリンク）とあわせ、中上級者向けの英語による著作は数はまだ少ないものの良質なものがかなり充実してきた。後は、入門者、初級者向けの良質な英語将棋コンテンツが出てくると、Naruto 効果、Clubhouse Games 効果との相乗がかなりの確度で期待できると考える。

Yahoo! の将棋特集の連絡とその返事

　羽生三冠とのネット対局、瀬川四段、早水女流二段との指導対局権のオークション、「棋士に教わる基本の一手」などが一堂に集められた Yahoo! の将棋特集 の情報を流すため、筆者の知っている日本語ができる将棋ファンの外国人へ週末にメッセージを送った。フランス、イスラエル、ロシア、カナダ、台湾が一人ずつ、そして中国が二人である。

　全員から二日以内に返事が返ってきた。代表してフランスの方からのメッセージをご紹介する。

Takodoriさま、

リンク、ありがとうございます！応募してみます。
フランスの将棋フォーラムにも載せてみますね。

ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。

　日本語の将棋コンテンツはネット上に山ほどあるので、外国語としての日本語で将棋情報に接する彼らが、自分が望む情報を選び出すのはなかなかたいへんな作業ではないかと思っている。そういう彼らに、今回のような夢のある情報を選んで流してあげると喜ばれる。日本語ができる外国人の将棋ファンとのネットワーク作りも大切なことだ。

Clubhouse Gamesで shogi をやってみた肯定的反応

　TimeKirby さんの、gamespot.comのDSフォーラムへの投稿より引用。訳は筆者による。

I recently unlocked Shogi, and I'm having a blast with it. Unfortunately, I tend to do poorly even against the computer. I know how to play and how the pieces move, but it would be great if someone would be willing to teach and show some basic strategies to protect myself in the game before I start playing it more online.（最近、Shogi のロックをはずせた。すごく気に入っている。残念なのは、コン君に対してさえうまいこと指せないんだ。どうやって指すかや、駒の動かし方は知っている。もっとオンラインでプレイし始める前に、誰か僕に進んで基本的な戦略を教えてくれる人がいて、自分自身を守ることができればいいのだけれど）

　「だれでもアソビ大全」の海外版である、Clubhouse　Games（42 All-Time Classics)が出たことによって、将棋にはまりそうなユーザーが出てきたことの証しのエントリーと言ってよいだろう。また、shogi も他のほとんどのゲームと同じく、 Wi-Fi によるOnline Mode で他のユーザーとも対戦ができるのもこのエントリーでわかる。

　盤駒（ビデオスクリーンだが）と駒の動かし方は、任天堂によって確実に Clubhouse Games の販売地域に広がってきていると筆者は信じる。次なる課題は、この TimeKirby さんのように、うまく指したいという、あるゲームを覚えたてのユーザーとしての自然な欲求にどのように応えられるか、ではないかと思う。

日をずらして発表できなかったのかーYahoo!で指導対局権のオークションなど

　11月9日付の、米長邦雄永世棋聖の「さわやか日記」で

１１月１０日には二つの大きなプレス発表があります。いずれもインターネットに関することです

　というエントリーがあったので、ネット上の新聞サイトなどに注意していたが、将棋倶楽部24の譲渡の記事しか朝には発見できなかった。もうひとつは何だったのだろうと思って日本将棋連盟のホームページを見てみると、プレスリリースの形式ではなく、いきなりヤフーのページに飛ぶのだが、

Yahoo! JAPAN　将棋特集
早水女流二段との指導対局権などオークション出品中

　という案内があった。羽生三冠の挨拶の動画がリンク先にはあり、また、「羽生三冠に平手で挑戦できるチャンス！」というファンにとっては非常にそそられるコピーが目に付く。

　当ブログとしては、上記のコンテンツのひとつの

棋士に教わる基本の一手

に大注目で、きれいで大変見やすい盤面の次の一手問題が10問、早水女流二段のヒントの動画付きで、出題されている。すぐに正解を見ることができるのが制限時間に追われないこと、一度解いた問題と回答を何度でも見返せることが検定問題とは違った魅力である。日本語ができる外国人の将棋ファンには早速伝えなければ。これが実現できるなら、外国語の同種のアプリケーションまであと一歩だ。

　このニュースが将棋倶楽部２４の日本将棋連盟への譲渡のニュースと重なったのはよかったのだろうか。狙って同時発表したとしたしか思えないのだが、筆者としては日にちをずらして発表したほうが、アナウンス効果が高かったと考える。