将棋の海外伝播などについてのブログ

国際チェス連盟(FIDE)のInternational OrganizerのAlexander Kostiev氏がモスクワチェスフェステバルで将棋の大会が開催されることに言及

 国際チェス連盟(FIDE)の International Organizer の Alexander Kostiev 氏が、世界中から１５００人程度の参加が見込まれ、27日から2月9日まで行われる2012年モスクワチェスフェステバル（メインイベントはモスクワオープンである）で、将棋や、チェスの64マスでなく100マスのバリアントの大会も併催されることに言及している。その部分を引用し、該当の部分を太字にしてみた。

• Interview with Alexander Kostiev | Chessdom

The highlight of the event is the World Chess Problem Solving Cup. This tournament has become very popular among those solving chess etudes, problems and compositions. Shogi and 100 squares chess variant tournaments are run as a part of the festival.

その前の部分には、チェスプロブレムの解答選手権が行われることも書かれている。

FIDEのウェブサイトに、Alexander Kostiev 氏のaプロフィールのページがあり、International Organizer という役職を与えられていることがわかる。

• Kostiev, Alexander N. FIDE Chess Profile - Players Arbiters Trainers

このようなチェスの最有力国での一つであるロシアで行われる国際的なチェスの大会の主催者が明示的に Shogi という単語を使って、チェスメディアのインタビューに英語で答えてくれている。誰がどのように水面下で動いて将棋がモスクワのチェスフェステバルに含まれることになったかかはちょっとわからない。これは目立たないことではあるが、将棋の海外伝播にとっては大きな出来事のような気がする。

写真家の堀市郎が野口英世とニューヨークで将棋を指したという英文記事

松江出身の写真家の堀市郎の写真が新たに埼玉県でに見つかったという記事の英文記事で、氏がニューヨーク滞在中の野口英世と将棋を指していたという内容を毎日新聞が報じている。元記事になる日本語記事が毎日新聞のサイトで検索しても発見できないので、別媒体の日本語記事と、毎日の英文記事にリンクをする。

• 写真家・堀市郎の作品発見＜動画あり＞ - 中国新聞
• 山陰中央新報 - 米国で活躍した松江出身写真家　堀市郎の作品１００点公開
• Photos taken by famed Japanese photographer in N.Y. in early 20th century found in Japan - The Mainichi Daily News

Hori deepened a friendship with Noguchi who was in New York for research activities, as they lived next to each other in the same apartment, and Hori taught Noguchi how to play shogi, or Japanese chess, and paint in oils. Hori took a lot of portraits of Noguchi in New York, some of which are displayed in Hideyo Noguchi Memorial Hall in Fukushima Prefecture.

中国新聞、山陰中央新報には掘一郎と野口英世が将棋を指していた記述はないが、毎日の英文記事では、ニューヨークで野口に将棋を教えたのは堀であることが書かれている。

電気通信大学の保木特任教授がカナダのアルバータ大学でコンピュータ将棋とボナンザの最近の進歩についてセミナー

ボナンザの開発者の電気通信大学特任教授の保木氏が２月３日にカナダのアルバータ大学でコンピュータ将棋とボナンザの最近の進歩についてセミナーを行うことが、同大学のウェブサイトで予告された。

• Recent advances in computer shogi and the Bonanza program | Department of Computing Science

February 3, 2012 - 12:00pm - 1:00pm

CSC 3-33

Shogi is one of the major variants of chess. The material balance is less important and the branching factor is greater than in Western chess. Because of these properties, creating a decent computer shogi player was a difficult challenge. When Deep Blue defeated the World Chess Champion Garry Kasparov in 1997, the most advanced Shogi program at that time was no better than an ordinary amateur player. Recently, computer shogi programs have started to defeat human experts. The program Akara2010 defeated one of the top female shogi professionals in 2010, another program, Ponanza, achieved the highest rating in blitz games among all players in the most popular online shogi server, Shogi Club 24, in 2011, and most recently Bonkras defeated a retired top professional player, Yonenaga, in 2012. In this talk, two main features of the computer shogi program Bonanza, one of the strongest shogi programs, will be presented. One main feature is the optimization method used to train the full evaluation function with more than ten million parameters. The other is a game tree search method which is more brute-force and less selective than other popular approaches. We close with some comparisons of the algorithmic differences between chess programs and Bonanza.

予告文を見ると、Bonkras の米長永世棋聖からの勝利にも触れていて、非常にタイムリーなセミナーのようである（電王戦以前に決まっていた企画かもしれないが、電気王戦から１ヶ月たたないうちに、Bonkras が下敷きにした Bonanza の開発者が海外でセミナーを持つというのは画期的なことだと思う）。

コンピュータチェスでは既にスマートフォンソフトがグランドマスター相当

ひとつ前のエントリーに対するコメントで、以下のような貴重な示唆をいただいた。

Wikipedia：コンピュータチェスに「ハードの低性能化」の項があるように，アルゴリズム＝ソフトウェア側の高効率化が進めば，nps（1秒間の局面評価量）は少なくて済むようになります．（以下略）

というわけで、Wikipedia のコンピュータチェスの「ハードの低性能化」の項目を読んでみたところ以下の文章を見つけた。

2009年8月には、スマートフォンのHTC Touch HDに搭載された「Pocket Fritz 4」がアルゼンチンで開催されたカテゴリー6（参加者のレーティング平均が2376以上2400以下。FIDEマスターの上位からIMの下位相当の水準）の大会に出場し10戦中9勝1分の戦績を収め、グランドマスター級の評価が与えられた。Pocket Fritz 4は1秒間に2万局面を読むが、ディープ・ブルーが1秒間に2億局面を読むのに比べると演算能力は1万分の1に過ぎず、ソフトの進化を印象づけるものとなった。

この大会について英語の記事をさがしたところ、Chessbase.com にレポートがあるのを見つけた。

• ChessBase.com - Chess News - Breakthrough performance by Pocket Fritz 4 in Buenos Aires

Pocket Fritz 4 in the Mercosur Cup 2009

The global launch of Pocket Fritz 4, based on the Hiarcs 13.0 chess engine, could not have been more auspicious. In this category seven tournament the program, running on a handheld Pocket PC, scored a stunning 9.5/10 points, with an Elo performance of 2938. The program is scheduled to be released in October 2009 -- but you can order Pocket Fritz 3.0 for EUR49.99 today.

上記リンクの記事に、全棋譜をボード上で再現できるページへのリンクがある。勝敗表も貼ってみたが、確かに９勝１引き分けである。Chessbase.com の英文では elo レーティング2938相当とのことで、これはグランドマスターレベルの強さであるらしい。

 ただ、Pocket Fritz 4の１秒あたりに評価する局面数が２万局面というのは、Wikipedia の日本語と英語以外では掲示板などがあるだけで、筆者には確たるソースは見つけられなかった。ともあれ、２００９年当時のスマートフォーンでは数十万局面を一秒で読むのは無理だっただろうか。

２００７年の渡辺 vs Bonanza 戦での Bonanza は一秒に４００万局面、そして今回は一秒間に１８００万手を読んだとのことだが、仮に上の数字が本当だとして、ソフトウェアが洗練・進歩していけば将棋の場合ももっと桁違いに少ない、一秒あたり数万回の局面評価数でプロ棋士相当の強さが実現できるようになるのだろうか。正月の米長永世棋聖の講演ではクローズアップ現代が取材に入っているとのことだったらしいが、仮に番組ができるなら、一秒間に１８００万手読むというのはあまり強調しないでほしいなと思う。

ひと段落してコンピュータ将棋についての疑問を箇条書きにしてみる

ニコニコ生放送のライブ、コンピュータの勝利、第２回電王戦を人間対機械の５対５の団体戦への変更など、めまぐるしく出来事が起こったので、現象を追いかけるのに忙しくてあまり考える時間が取れなかった。ひと段落して、コンピュータ将棋についていろいろと疑問がわいてきたので箇条書きにしてみる。将棋世界誌などの将棋メディアや技術系のメディアが答えてくれると嬉しい。

1. 1997年にチェスで Kasparov を破った Deep Blue は１秒間に２億局面を評価したという。今回のボンクラーズを動かした富士通のブレードサーバーは１秒間に１８００万局面を評価するとのことで、実はDeep Blueの１０分の１のスピードもない。素人目にはいかにも小さい、といういかいかにも中途半端な数字である。１秒当りに評価できる局面数でDeep Blue をしのいだり、世界一になったりすることは（世界一の数字は知らないが）あまり意味がないことなのであろうか。
2. 将棋はチェスよりもルール上可能な局面がはるかに多いといわれている。にもかかわらず、Deep Blue の１０分の一に満たないスピードでしか局面を評価しない機械に、引退して８年たつとはいえかつてのトップ棋士だった方がプレマッチ含めて公の場で２連敗するというのは、チェスに比べて将棋が単純なゲームということになるのではないだろうか。
3. もし、将棋がチェスに比べて単純なゲームでないというのなら、Deep Blue の１０分の一以下のスピードで、なぜ引退したトッププロに勝ててしまうのかの説明がほしい。考えられる仮説は、引退したトッププロは現役のプロに比べてかなり弱い、および、評価関数を含めソフトウェアが洗練・進歩し、１秒に２億局面のような膨大な手数を読まずとも勝てるだけの強さを持つようになった、のどちらかか、その両方か、ということになると思う。
4. Deep Blue の情報がどの程度公開されているのかわからないが、Deep Blue のソフト、アルゴリズムと、Bonkras のそれとを比べた場合、どのくらい Bonkras が洗練・進歩しているのかを知りたい。たとえば、単純に評価関数の項目数を Deep Blue と Bonkras で比べたときに項目数が桁違いに違っているなどの特徴が観察されるのであろうか。
5. １秒間に２００万局面を評価するというのは、１９９７年当時のIBMが自らの技術力を誇示するための数字であって、現実に人間に勝つための数字としてはオーバースペックなのではないか。今のチェスのトップソフトは、人間のトップに勝つのに、実際は１秒にどの程度の局面を評価すれば必要十分なのだろうか。それは今回の Bonkras の１８００万手よりも低い数字なのだろうか。
6. もし、一秒間に評価できる局面数を競うことにあまり意味がないのならば、今後は一秒間に読む局面数を一定、それが技術的に難しいのならば一定の範囲ににして、より純粋にフトウェアの優劣を競うほうが意味があるのではないだろうか。一秒あたりの局面数がを一定の範囲にすることが技術的にあまり意味がないとすれば、同じスペックのハードで動かすことにしたほうがよいのではないだろうか。

以上のような疑問が浮かんできた。答えてくれるメディアが現れてくれると嬉しいと思っている。

富士通のBonkras将棋の英文リリースが１６日に出ていた

順序が後先になってしまったが、富士通が１６日にBonkras勝利の英文リリースを出していた。

• Fujitsu's Shogi Software Tops Former Shogi Champion Kunio Yonenaga : Fujitsu Global

HIDETCHI氏、囲碁将棋チャンネルの「お好み将棋道場」に今月末出演

英語で将棋を紹介するビデオを２００本以上作成して YouTube にアップロードし、各国の将棋愛好家にネット上でよびかけ協力を得てそのビデオに様々な言語の字幕をつけるなど将棋の海外普及に多大な貢献をしている HIDETCHI 氏が今月囲碁将棋チャンネルの「お好み将棋道場」に出演する。同番組はアマチュアの愛棋家がプロに駒落ちで挑戦するというもの。プロ側は所司七段が上手をつとめるようだ。同氏の Twitter より転載。

• https://twitter.com/#!/HIDETCHI/status/158494721776418816

@HIDETCHI
HIDETCHI
囲碁将棋チャンネルの「お好み将棋道場」に出演します。放送日時は、1月28日(土)10:00～11:38。(再放送: 1/29(日)22:00、1/30(月)14:00) 所司先生に飛車落ちで挑戦しました。結果は見てのお楽しみ。 twitpic.com/87jjis

英国のニュースリリース配信会社とおぼしき会社が米長vsボンクラーズ戦のリリースを英語で配信

英国のニュースリリース配信会社と思われる Vadvert が英文で１４日のボンクラーズの勝利について、富士通研究所のリリースとして流しているのを見つけた。

• Fujitsu’s Shogi Software Tops Former Shogi Champion Kunio Yonenaga | Vadvert - UK Paid Press Release Distribution Service

この英文は基本的に富士通研究所が１６日にリリースした「コンピュータ将棋 vs 米長邦雄永世棋聖の対局が決着 : 富士通」の英訳である。チェスでは1997年に人間とコンピュータとの対戦でコンピュータが勝ったなど、chess という単語がいくつか含まれているリリースなので、世界のチェス界の人の目にこのニュースがとまることが期待される。

このブログを書いている時点では、富士通研究所の日本語リリース一覧には１６日付でボンクラーズの勝利についての発表文が置かれているが、英語のリリース一覧にはまだ現れていないようである。

• 富士通研究所の日本語プレスリリース一覧
• 同英語

＜追記＞

英国で英文のリリースが出た後、インドの Business Wire India で同じニュースが配信されたのを見つけた。

• Fujitsu's Shogi Software Tops Former Shogi Champion Kunio Yonenaga Step forward for research into artificial intelligence

ボンクラーズ勝利を伝える英語エントリー

今のところ見つけているのは次の３本。ひとつは毎日新聞の英語ニュースで Google news で shogi をキーワードで検索すれば引っかかるもの。残りの二つは Google の Web 検索で１週間以内で Yonenaga をキーワードにすれば検索可能なものである。

• Shogi program 'Bonkras' defeats expert player Yonenaga in first official match - The Mainichi Daily News
• Asiajin » The First Top-Pro-vs-Computer Shogi(Japanese Chess) Match Was Won By Computer
• Man vs Machine - fuckedgaijin

あと、共同通信社が写真を英語でも配信したのは確認できた。ただ、英語記事になっていないようなので、ジャパンタイムズや chessbase.com などが本件をカバーするかどうか心配である。以下は、表記は同じだが別の２枚の写真へのリンクである。

• Computer software beats Japan shogi body chief | Photos | Kyodo News
• Computer software beats Japan shogi body chief | Photos | Kyodo News

＜追記＞　NHK World が英語で報道をしていた。

• Computer program defeats professional shogi player

永世名人資格者３人がニコ生で１４日の米長 vs ボンクラーズ戦に言及

８日にニコ生で、【電王戦 直前特番】決戦６日前！米長邦雄永世棋聖が将棋電王戦を語る - ニコニコ生放送が放映された。米長永世棋聖とフリーアナウンサーの福山知沙氏によるトークショーの形で番組は進んだが、番組中に、森内名人、羽生二冠、谷川九段がそれぞれ別々に録画されたインタビューで１４日に行われる電王戦についてコメントしていたのが目を引いた。現役の永世名人資格者３人全員が引退棋士とコンピューターの一戦に揃い踏みでコメントを出すことは異例のことで、それだけボンクラーズの強さを将棋界が真剣に受け止めていることが印象づけられるのに十分な出来事だったと思う。それぞれのコメントを紹介し、若干の感想を述べたい。

森内名人

最近ちょっとボンクラーズの将棋を何局か調べる機会があったんですけれども、以前のコンピュータに比べて非常に指し手が安定してきているというか、そういう感じがしますし、前は終盤の計算力、そして序盤の多大なデータを蓄積している、そういう強みがあったんですけれども、それに加えて中盤の強さも加わってきていて、なかなか手ごわいかなという印象はあるんですけれども、米長先生はあれだけの実績がある棋士ですし、往年の力を出すことができれば今回も大丈夫なのかなと思っています。米長先生がどういうような将棋を指すのか私も興味深く注目しております。

これまで、コンピュータ将棋についてコメントする棋士はたいていの場合が勝又六段で、今回の電王戦で遠山五段がニコ生の番組でボンクラーズの将棋倶楽部２４での棋譜を解説したのが例外的だと思ったが、現役の名人が「最近ちょっとボンクラーズの将棋を何局か調べる機会があった」と述べているのは注目すべき発言である。また、その結果が「なかなか手ごわいかなという印象はある」になったのは今のボンクラーズの強さを率直に描写しているのではないかと思う。

羽生二冠

米長先生は基本的に今までの経験をいかすような、位とか厚みとかそういうのがいきるような展開にもっていきたいというのがあると思うので、最初の出だしのところから中盤の入り口くらいまでのところでどういう形になるかというのが一番の見所ではないかと思っています。

羽生二冠は米長永世棋聖の望む展開を予想しているだけである。が、「位とか厚みとかそういうのが生きるような展開」を、対コンピュータプログラム対策として羽生二冠自身が有力と考えているのかどうかが知れればより興味深かったと思う。

谷川九段

情報合戦になるとやはりコンピュータにはなかなか勝てないので、できるだけ早い段階で前例のない未知の局面に持ち込んでなおかつ局面の均衡が保たれている形にもっていって力将棋でねじり伏せるというそういう場面を見てみたいとは思っています。

現役の永世名人資格者の一人から「情報合戦になるとやはりコンピュータにはなかなか勝てない」という弱気な発言が出たのは驚いた。谷川九段のコメントは既にボンクラーズがプロをしのいでいるというようにも取ろうと思えば取れるコメントである。

上にリンクしたニコ生の番組を放映したニコニコ動画は、この３人のコメントを録画して電王戦６日前というタイミングにオンエアしたことで、既存の将棋メディアに比肩し得る、もしくはそれ以上の働きを示したと思う。

＜追記＞ニコニコ動画が本番のPVを作成したのを見つけたのでリンクを追加する。北浜七段、電通大教授の伊藤毅志氏などのコメントも見ることができる。