ニコニコ生放送のライブ、コンピュータの勝利、第2回電王戦を人間対機械の5対5の団体戦への変更など、めまぐるしく出来事が起こったので、現象を追いかけるのに忙しくてあまり考える時間が取れなかった。ひと段落して、コンピュータ将棋についていろいろと疑問がわいてきたので箇条書きにしてみる。将棋世界誌などの将棋メディアや技術系のメディアが答えてくれると嬉しい。
- 1997年にチェスで Kasparov を破った Deep Blue は1秒間に2億局面を評価したという。今回のボンクラーズを動かした富士通のブレードサーバーは1秒間に1800万局面を評価するとのことで、実はDeep Blueの10分の1のスピードもない。素人目にはいかにも小さい、といういかいかにも中途半端な数字である。1秒当りに評価できる局面数でDeep Blue をしのいだり、世界一になったりすることは(世界一の数字は知らないが)あまり意味がないことなのであろうか。
- 将棋はチェスよりもルール上可能な局面がはるかに多いといわれている。にもかかわらず、Deep Blue の10分の一に満たないスピードでしか局面を評価しない機械に、引退して8年たつとはいえかつてのトップ棋士だった方がプレマッチ含めて公の場で2連敗するというのは、チェスに比べて将棋が単純なゲームということになるのではないだろうか。
- もし、将棋がチェスに比べて単純なゲームでないというのなら、Deep Blue の10分の一以下のスピードで、なぜ引退したトッププロに勝ててしまうのかの説明がほしい。考えられる仮説は、引退したトッププロは現役のプロに比べてかなり弱い、および、評価関数を含めソフトウェアが洗練・進歩し、1秒に2億局面のような膨大な手数を読まずとも勝てるだけの強さを持つようになった、のどちらかか、その両方か、ということになると思う。
- Deep Blue の情報がどの程度公開されているのかわからないが、Deep Blue のソフト、アルゴリズムと、Bonkras のそれとを比べた場合、どのくらい Bonkras が洗練・進歩しているのかを知りたい。たとえば、単純に評価関数の項目数を Deep Blue と Bonkras で比べたときに項目数が桁違いに違っているなどの特徴が観察されるのであろうか。
- 1秒間に200万局面を評価するというのは、1997年当時のIBMが自らの技術力を誇示するための数字であって、現実に人間に勝つための数字としてはオーバースペックなのではないか。今のチェスのトップソフトは、人間のトップに勝つのに、実際は1秒にどの程度の局面を評価すれば必要十分なのだろうか。それは今回の Bonkras の1800万手よりも低い数字なのだろうか。
- もし、一秒間に評価できる局面数を競うことにあまり意味がないのならば、今後は一秒間に読む局面数を一定、それが技術的に難しいのならば一定の範囲ににして、より純粋にフトウェアの優劣を競うほうが意味があるのではないだろうか。一秒あたりの局面数がを一定の範囲にすることが技術的にあまり意味がないとすれば、同じスペックのハードで動かすことにしたほうがよいのではないだろうか。
以上のような疑問が浮かんできた。答えてくれるメディアが現れてくれると嬉しいと思っている。
専門家などではありませんので不正確な部分はありますが,疑問に答えてみます.
Wikipedia:コンピュータチェスに「ハードの低性能化」の項があるように,アルゴリズム=ソフトウェア側の高効率化が進めば,nps(1秒間の局面評価量)は少なくて済むようになります.(人間が1秒3手程度でも強いのと同様)
http://ja.wikipedia.org/wiki/コンピュータチェス
一方,同じソフトでも改良により計算効率を上がるためソフトのバージョンごとなどでのnpsの比較は相対的に意味を持ってきますが,npsが絶対的評価基準では無く,どちらかというと一般向けにわかりやすい基準として出してるだけでしょう.
コンピュータ将棋間の事実上の棋力の基準はfloodgateと呼ばれるコンピュータ将棋同士の対戦場のレーティングとなっています.
ここに投入されているものはあくまで個人レベルのプログラマ達が趣味で競っている以上,全く同じ評価基準で競うのは不可能ですし,そうなると年1回の世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフトがその年の最強となるのも当然だと思います.
以上,長文失礼しました.
投稿情報: 通りすがり | 2012年1 月24日 (火) 11:57
http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/logs/LATEST/players-floodgate.html
floodgateのリンクを張り忘れました.
投稿情報: 通りすがり | 2012年1 月24日 (火) 11:58
> 通りすがりさん
貴重な情報と示唆をありがとうございました。本エントリの次のエントリでいただいた情報を元にさらに展開をしてみました。
投稿情報: takodori | 2012年1 月24日 (火) 15:15
コンピュータ将棋関する疑問点示唆など参考になりました。
情報処理学会誌「情報処理」最近号では、ゲームの特集をしています。
コンピュータの処理スピードは急速に向上しているようです。1月16日安田講堂で「情報爆発:big date」の講演がありました。
投稿情報: umagata | 2012年1 月26日 (木) 18:39