今年になって、海外の複数の方から、「玉将は先手が使い、王将は後手が用いるのか」という質問をもらっている。日本将棋連盟の公式将棋ガイドブックにある通り、「棋力の上の人、目上(年齢、先輩など)の人が王将を持つのが習慣となっている」というのが、日本国内の共通認識だと思っていたので、なんで同じ質問が多いのか不思議だった。最近の shogi-l のやりとりでその震源地らしき部分が判明した。どうやら John Fairbairn 氏が英語で将棋を紹介した著作"SHOGI for Beginners"(Kiseido, 1984)に以下の記述があるからのようだ。
It is not important but a convention that many players like to follow, for a bit of extra atmosphere perhaps, is that if a set has two types of king, Black takes the one marked 玉 and White takes the one marked 王.
かいつまんでいうと、大事なことではないが、玉将と王将がある駒の場合、先手が玉将、後手が王将を使う習慣がある、ということが書かれている。この本は、Amazon.com で購入できる英語での将棋の入門書なので多くの海外の方が読んでいる。ならば、同じような質問が来るのは納得だ。
それはわかったが、Fairbairn 氏はなにゆえ、先手が玉、後手が王という認識に至ったのか。氏は青野九段との日英対訳の共著などがあるなど将棋には詳しく、単純な誤解とは思えない。かといって、1984年頃のことを思い出そうにも、記憶がない。
もしかして、テレビ将棋かもしれないと考えた。NHK杯では、上座・下座は関係なく、視聴者から見て画面の左側の対局者が先手、右側が後手と決まっていた気がする。ならば、大盤解説の盤面の下側(先手ないし下手)が玉、上側(後手ないし上手)が王という決め事があるのかもしれない、と思って本日の NHK 杯に注目した。
本日の対局は、先手が北浜七段で後手は窪田五段。対局場の盤面では上位者の北浜七段が王、窪田五段が玉を使っている。当然のことだ。さて、大盤解説の盤面はというと、今日まで注意して見ていなかったので気が付かなかったが、双玉であった。その前の谷川九段の講座の大盤も双玉。
ならば、囲碁将棋チャンネルの「将棋まるごと90分」はどうかと思い、火曜に放送された分の再放送を NHK 杯に続けて見ることにした。ちょうどよく、小林裕士六段による、朝日オープンの第三局、先手羽生朝日、後手藤井九段の解説である。結果は、これも今まで見過ごしていたが、大盤の先手羽生朝日側は王、後手の藤井九段側が玉になっていた。続いて小林六段の自戦解説は、田中寅彦九段とのもので、これも、大盤上では、先手の田中九段側に王が用いられていた。囲碁将棋チャンネルの大盤解説では、王と玉2種類がある駒を使い、先手後手に関係なく上位者側に王を使うということになっていると窺えた。
とすれば、Faibairn 氏の認識はどうやらテレビの影響ではないのだろう。それとも、NHKの大盤解説は、昔は先手が玉、後手が王という決め事があって、現在に至るどこかの時点で双玉に改められたのだろうか。
脱線になるが、2月に放映されたNHK杯の渡辺竜王対山崎六段戦で、どちらが王将を使っていたのかもっと注意して見ておくんだったと、後悔している。竜王に決まっているではないかと怒られそうだが、山崎六段は、その前の期のNHK杯優勝者であり、また、順位戦の順位はC級1組3位で6位の竜王より上位、また、竜王より年上、四段になったのも早くプロとしてのキャリアは先輩ということになる。なので、どちらが上位者になるのかの格好のケーススタディの題材だった。ほとんど話題になっていないことからすれば、竜王が王将を使ったのだろうとは思うが、、、。ぜひ、渡辺竜王には、竜王在位中に番勝負の挑戦者になってもらって、王将を使うのか、玉将を使うのか、ファンにみせて欲しいと思う。
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