本日のNHK杯は山崎六段対塚田九段、山崎六段が先手であった。最終盤、特に、山崎六段の指し手が早くなってきてから、すなわち、山崎六段が勝ち筋を読み切ったと思われるところからが面白かった。(録画しなかったため、恐縮ですが図面無しで書きます。NHK将棋講座の七月号がでたら図は補完します)
塚田が最後に残った考慮時間の一分を使った局面は、明らかな負けであった。投了をしてもおかしくない場面でぎりぎりまで考え、3一銀打ち。受けになっていない。山崎、4三銀打ち。3四銀成り捨てと3ニ銀不成の二通りの詰めろが受からない。必死がかかった。
と、ここで塚田は明らかな負けにもかかわらず、見苦しい時間稼ぎにしか思えない5七歩の成り捨て。王手である。山崎は少し時間を使って考え同金。続いて塚田、ぎりぎりまで秒を読まれて2五銀打ち。二通りの詰めろの3四銀成りを受け、2六に居る角にも当てた手、しかし、山崎玉に詰めろがかかったわけでもなく、局面は依然として2手以上離れた大差。なぜ投了しないのか不思議だった。
塚田九段の意図は詰むまで投げなかったことでわかった。多分NHK杯史上初、将棋史上でも珍しいと思うが、都詰めの投了図ができあがった。5七歩の成り捨てを入れなければ都詰めの筋は生じなかった、また、角に当てた2五銀打ちも、後の派手な4四角捨てを読みやすくさせる効果があったはず。本人に確かめたわけではないが、塚田九段は、自分が負けだとわかった後、すぐに投了せず、ファンに見せる投了図をどのようにしようかと最後の考慮時間を使い、都詰めを成立させるために歩を成り捨てたということで間違いないと思う。
将棋は頭脳スポーツだという捉えられ方が海外では一般的である。スポーツであるからには、双方が勝つために最後までお互いが最善をつくすという競技という了解がある。だが、本日のNHK杯は、勝負が決まってからが本当に面白かった。投了図を美しくしたいという棋士の美学、将棋の文化的側面をはっきりと見ることができた対局だったと思う。こういう面が将棋にはあることも、うまく伝わるかどうかわからないが、海外の人になんとか伝えていきたいと思う。
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