将棋の生角と、チェスのビショップは動きが全く同じである。角は英語でビショップと同じ動きをすると説明されることが多い。そのためか、将棋の角を、チェスのビショップと同じように角を序盤から動かすケースが散見される。
Brainking.com(英語)で、いま、Collective game of shogi (英語)と称する、1対多の対戦が行われている。多の側の指し手は、投票によって決めるというやりかた。図は、その対戦で多の側の後手が2二にいた角を3三にあがったところ。角頭歩の出だしから、先手が角道を止めたので、飛車を2二に振ることを含みにした自然な手である。この手の投票をしているとき、次のような質問がチェスの知識が背景にあると思われる方から出た。
「なぜ、4四角でなく、3三角なのだ。4四のほうが操縦性に富む(more maneuverability)のでは」
この質問は鋭い。他の駒を取っ払ってしまって、盤上角が一枚だけになった場合を想像してもらうとわかるが、角は、中央にあればあるほど行ける升目が増え、その分働きがよい。5五にあれば、16マス、4四ならば、14マス、3三ならば、12マスなので、質問者の4四のほうが操縦性に富むというのは部分的には正しい指摘である。ただ、筆者としては、図の局面で3三角ではなく、4四角と出るのには違和感がある。その違和感について論理的に説明しようとして、チェスと将棋の違いに思い当たった。
チェスではビショップより価値が低い駒はポーンしかない(ナイトはほぼ等価である)。それに対し、将棋では角より価値が低い駒は、金、銀、桂、香、歩の5種類があり、そのうち、桂馬を除く4種類が、ひとつ前の升目に進める駒である。また、チェスのポーンは、基本的にはひとつ前の升目に進む駒だが、相手の駒を取るときは、斜め前に進むのがルールである。従って、ビショップの頭に敵のポーンが来ても、そのビショップは取られる脅威がない。チェスでは実質的にビショップの頭をビショップより弱い駒で攻められることは皆無である。
それに対して、将棋の角は、自分より価値の低い4種類の駒が前に進め、駒を取るときも同様の動きをするので、相対的に角の頭はチェスに比べかなり脆いことになる。従って、角の頭を援護する駒(主に銀か金)が角の横に居ることが駒組み上必要になってくるのだが、4段目まで出てしまうと相手の陣地に近く、敵の角頭攻めに対して、援護の駒が間に合わないおそれがある。だから、4四ではなく3三なのですよ、というような説明をしたところ、「たいへん役に立つ指摘だった。ありがとう」と感謝された。
チェスと将棋は一般的には似ているゲームと説明されることが多いが、細かく見るとかなり違うことがあるようだ。そういう部分を見つけてはできるだけ言語化し、論理的な説明ができるようにしていきたい。
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