NHK将棋講座の七月号が出たので、5月21日のエントリーの補足。
左図は、今年の5月21日に放送されたNHK杯の塚田九段対山崎六段の終盤戦で111手目までの局面。山崎は79手目で1分単位で10分ある考慮時間を使いきり、それ以後ずっと30秒で指しており、塚田もこの一手前の▲3一銀のときに最後の考慮時間を使い、双方が30秒将棋となったところである。
ここでは、山崎勝勢で、図の▲4三銀は、▲3四銀成以下と▲3ニ銀不成り以下の2通りの詰めろになっている。長くなって恐縮だが手順を示せば
(1)▲3四銀成▽同玉▲3五香▽2三玉▲3四角▽2二玉▲2三金▽同銀▲同角成▽同玉▲3四銀▽1ニ玉▲2三金▽2一玉▲2二金▽同銀▲同金▽同玉▲3三銀成▽2一玉▲3二銀▽1ニ玉▲2三成銀まで
(2)▲3二銀不成▽同銀▲2二金▽同玉▲3一銀▽同玉▲4二金▽2一玉▲3二金同玉▲4一角▽2一玉▲3ニ銀▽1ニ玉▲2三金まで
(3)▲3二銀不成▽同玉▲4三金▽2三玉▲3三金▽同玉▲4三金▽2二玉▲3三金▽2一玉▲3二角▽同銀▲同金左▽1ニ玉▲2三銀まで
のような手順がある。
図で筆者が後手であれば、とりあえず▽5五桂と王手をかけるか、無駄と知りつつクソ粘りの▽2二桂か▽2一香を打って、2通りの詰めろを一時的に解消する(従って前エントリーで図の局面を「必死」と書いたのは誤り)かのどちらかを指しそうだが実戦は
▽5七歩成▲同金▽2五銀(下図)
と進んだ。
▽2五銀とはまた不思議な手である。▲3四銀成以下の詰めろの防ぎにしかなっていない。以下、先手、当然の▲3二銀不成に▽同玉とすすんだ。この▽3二同玉にも驚いた。▽3二同銀と取れば、後手玉が詰むまでに、先手は▲2二金、▲3一銀、▲4一角と3回捨て駒を打つ順になり、そのどこで投げてもそれなりにきれいな投了図ができる。だが、▽3二同玉と取ってしまうと、最初に示した(3)の手順が考えられ、駒をべたべた打ち込んでいく身も蓋も無い詰め手順になってしまい、投げ場がなくなってしまうのではないかと心配になったのである。
だが、秒読みのなか山崎は塚田の成り捨ての意図を正確に察知していたようである。実戦は、図の後、以下のように進んだ。
▲3二銀不成▽同玉▲4三金▽2三玉▲3三金▽同玉▲4四角(!)▽同玉▲4三金▽5五玉▲5四金(投了図)
投了図を見ると、歩の成り捨てで先手の金が5八から5七に来たため、6六に後手玉が抜けられないようになっているのがわかる。▲4四角というかっこいい捨て駒が飛び出したのも、テレビ将棋で都詰めが実現したのも、最初の図で歩を成り捨てなければ起りえなかったことになる。
塚田九段は、宝島社の「将棋王手飛車読本」の「あなたはいつ投了しますか」というアンケートに「自玉が詰むか、とてつもなく大差と思ったとき。勝負は最後まで何が起るかわからないので、つらくても早い投了はしないようにしています」と答えている。
都詰めの詰将棋を知っている海外の将棋ファンにも、実戦で生じた都詰めの投了図は珍重されるだろう。
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