梅田望夫氏のLife Between Silicon Valley and Japan 10月17日付で「ニコニコ動画で「羽生対中川」戦を見た」というエントリーに窪田六段がコメントをしたことがきっかけとなって、「梅田さんが"ニコニコ動画で「羽生対中川」戦を見た"という話。」(日々、とんは語る)というエントリーがあげられ、窪田六段自身が「新たな時を開くかニコニコ動画」(義七郎武藏國日記)というエントリーを起こすに至っている。これらの流れの中身についてはコメントを控えるが、窪田六段が正会員となっている日本将棋連盟の現状の課題のひとつが「インターネット放送局の立ち上げ」であり、そのことが、今回の流れに大なり小なり関係しているのではないかと思ったので、背景的知識として自分の知るところなどを記しておきたい。
週刊将棋9月29日号「理事に聞く」最終回で米長日本将棋連盟会長が上げている6つの課題の4つめに「インターネット放送局の立ち上げ」がある。その関連部分について同紙より引用する。なお、紙媒体からの引用なので、リンクは筆者がつけたものであることをお断りしておく。
4つ目は、インターネット放送局の立ち上げ。対局中継をはじめとし、多彩なコンテンツを充実させ、ファンに喜んでもらえるものにしたい。
デジタル化に向かう世の中のすう勢に後れを取らない経営を目指すのが一番の役割と思っている。ウェブサイト『将棋倶楽部24』の獲得や大和証券杯の創設はスタートであって、4年間で夢を実現させたい。その夢がインターネット放送局。もちろんファンが喜ぶコンテンツをそろえるのは大切だが、同時に棋戦のスポンサーである新聞社と、連盟も喜べるものでなければ続かない。ここまでは無料だが、ここから先は有料とか、スポンサーをつけてファンには無料で見せるとか、いろいろな形が想定される。関係者と話し合いながら実現していきたい。
四段以上のプロ棋士を会員とする社団法人日本将棋連盟の体制は今年の5月に理事改選があり、新理事担当部署のお知らせを見る限りは、この「インターネット放送局の立ち上げ」は、米長会長が正担当、淡路常務理事、中川理事が副担当を務める経営戦略部の所掌と思われる。筆者の知る限りは上記引用以外には日本将棋連盟が「インターネット放送局の立ち上げ」について対外的に発表した文書は紙媒体でもネット媒体でもまだ存在していない(米長会長の個人的な日記「さわやか日記」ではなんどか「インターネット放送局」という文字が見られたことはある)。上記引用部分からは、何を目的として、どのような「インターネット放送局」を構想しているのか具体的にはほとんど見えてこない。「スポンサーをつけてファンには無料で見せて」とあるので、どうやら音声だけではなく、映像であり、しかも、今の地上波のようなビジネスモデルも考えているらしいことは窺われる。また、視聴者として想定されていると思われるのは「ファン」というきわめてとらえどころのない概念である。なお、将棋の七大棋戦は、さまざまな新聞社ないし通信社が単体ないし共同でそれぞれのスポンサーになっており、ほとんどが系列のテレビ局を抱えているという構造が現状あるのを理解されたい。読売新聞がスポンサーの竜王戦、来期から朝日・毎日が共催となった名人戦については、系列局でないNHK衛星がTV中継を行っている。また、七大棋戦とは別に、NHK がスポンサーとなっているNHK杯などの小棋戦がいくつか存在する。
今年発行のレジャー白書では日本の将棋人口は770万人と朝日新聞が伝えている。この人数が「ファン」と等しいのかどうかは議論の余地があろうが、筆者の素人考えでは、その規模の人数を相手に日本将棋連盟のような団体がインターネット放送局を立ち上げるということを真剣に考えているのならば、YouTube とか、ニコニコ動画とかがどのようなサービスであるのかは当然研究していなければならないと思うし、そのような動画共有サイトに、日本将棋連盟(の契約者)自らが製作した映像コンテンツを一定のタグで続々とアップロードしていくのが、もっともコストが低くて済む実質的な「インターネット放送」の選択肢ではないかとも思うのである。そういう形であれば「ファン」としては、24時間いつでも自分の好きなときに自分の好きな動画を選んで見ることができる。「局」と聞くと、どうしても筆者は箱物を作るとか、放送法の認可とかややこしく時間のかかる事を思い起こしてしまい、なおかつ、自分の好きな時間に見たい番組を見ることができないようなものになってしまうのではないかという懸念がある。もっと軽い動きでやらんとしていることはできるのではないかという気がするが、もろもろあって難しいのだろうか。
Takodoriさんへ
拙weblog10/18[新たな時を開くかニコニコ動画]http://shimousadainagon.moe-nifty.com/nitenichiryu/2007/10/post_345b.html#more へのTBを掲載させて頂きました。ご確認下さい。
>これらの流れの中身についてはコメントを控えるが、
日々棋界絡みの著作諸権利に関して、「大胆でもあり斬新でもあるが、極端な気もするご意見」をご発信なさる、Takodoriさんならではのご識見を伺いたく思いますが、貴エントリーでの要旨からは外れている様ですね。
>なお、紙媒体からの引用なので、リンクは筆者がつけたものであることをお断りしておく。
起こし作業、お疲れ様です。
将棋界の主要公式情報の中には、引用可能なweb媒体でない物も少なからず存在し、私も屡々地道に作業しております。
>「スポンサーをつけてファンには無料で見せて」とあるので、どうやら音声だけではなく、映像であり、しかも、今の地上波のようなビジネスモデルも考えているらしいことは窺われる。
「隗より始めよ」宜しく、連盟websiteでのpodcast配信から始め、実績を上げてスポンサーを募り拡充する、という展開なら現実的かと存じます。
詰将棋は基より、「先手、▲5三銀左上成。後手、△同飛引不成」といった符号が登場する創作棋譜からの問題(投了図での双方の持駒等)を出題するといった方法も、web2.0時代に逆行するかの様で話題を呼ぶかも知れません。
>また、視聴者として想定されていると思われるのは「ファン」というきわめてとらえどころのない概念である。
緻密なマーケティングに基づき絞り込みを図るべきかも知れませんが、図らずも絞り込まされてしまう反面、思わぬ所から想像を絶する形で興味や関心が寄せられる昨今です。
捕らえ所のなさに追随しつつ、好機には迅速に食い付けると良いかも知れませんが。
>読売新聞がスポンサーの竜王戦、来期から朝日・毎日が共催となった名人戦については、系列局でないNHK衛星がTV中継を行っている。
NHKさんは「ポップカルチャー系に無類の強さを発揮し、案外表現上の規制も甘い」とも言われていますが、お堅い様に見えて柔軟性に富む点もある分期待したいです。
>今年発行のレジャー白書では日本の将棋人口は770万人と朝日新聞が伝えている。
太平洋戦争末期に「旧日本海軍呉鎮守府長官が、四国方面の陸軍軍団長に『我が軍には剣道有段者が○万人、柔道有段者が△万人いるので四国は絶対に守れる』と聞かされて仰天した」逸話がありますが、大胆でこそあれ過信はしたくありません。
>そのような動画共有サイトに、日本将棋連盟(の契約者)自らが製作した映像コンテンツを一定のタグで続々とアップロードしていくのが
他所様のプラットフォームをお借りすれば基より、コンテンツさえ契約者作成としますと、いよいよ会長のご構想やご嗜好にそぐいませんが、全く持って激しく同感です。
連盟作成の場合、[将棋ニュースプラス - 趣味(BIGLOBEストリーム)]http://broadband.biglobe.ne.jp/program/index_shougi.html?movieid=838119&bgf=C362_NW_IM&bgt=MI838119 との競合も当分あり得ませんし、寧ろ「[ご主人様、王手です]出演者座談会映像・於特別対局室」等、手軽で効果大の上にスポンサー様との提携も計れる方策もあります。
動画共有サイトにとっても広告取得の可能性等、良い事ずくめでしょう。
[将棋のニコニコ動画(nicosees -)]http://nicosees.hot-cms.com/s/%E5%B0%86%E6%A3%8B.html 動画共有サイト参加者の皆様がコンテンツ創造力に溢れている点は周知の通りですが、将棋へは殆ど活かされていない点に、熾烈な不満があります。
私にプログラム技術や楽才があれば、「対ソフト神プレイ(全駒等完勝)と、状況を再現したボーカル音楽制作ソフトによる楽曲とのコラボレーション」を試みたく思えてなりません。
「同駄目プレイ(プレイヤーが全駒等完敗)」とのコラボであれば、将棋初心者でも可能ですので、我と思わんかぶき者の皆様にご期待申し上げたいです。
長文になりましたが、将棋界の「黒島亀人GF先任参謀」になったつもりで、意見を述べさせて頂きました。悪しからず。
棋界組織人としてTakodoriさんとは少なからず見解の相違がありますが、webを含む棋界に対する素志、及びノリ(苦笑)は共通している様に感じます。
追記
【BBCがネット配信開始、NHKも積極的 重要性高まる番組検索技術は一長一短(TV2.0への道のり NBonline08/13)】
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20070806/131789/
>そこでNHKは、過去の番組を蓄積して視聴できるようにした施設「NHKアーカイブス」を設立し、さらに今年6月には過去の番組をインターネット配信するための専門組織「アーカイブス・オンデマンド推進室」を設置するなど、この方面に向けて積極的に動いている。さらに近い時期の成立が期待されている放送法改正案には、過去の番組をネット経由で有料提供できる仕組みがとうとう盛り込まれた。
(もっとも自民党の参院選大敗のあおりで、放送法改正案の秋の国会での成立はかなり危ぶまれている)。
>この放送法改正が国会を通過すれば、通信と放送の融合───つまり番組コンテンツの流動化に向けて、NHKがついに突破口を開くことになるのだ。そうなるといずれは民放も追随せざるを得ない。改正案成立の時期にもよるが、しかしこのスケジュールは、2011年のアナログ地上波放送の停止と相まって、かなりの激震を放送業界にもたらすのは間違いない(P.2より引用)。
Takodoriさんはもうご存知かもと推察申し上げますが、久方振りに愕然!たる想いに駆られております。
投稿情報: 窪田義行 | 2007年10 月22日 (月) 03:44