卓球が段級位制を採用しているのをご存知だろうか。近代スポーツに段級位制はなじまない、という意見もあるようだが、1981年に日本卓球協会によって導入され、現在に至っているようだ。
具体的な昇段、昇級基準を含む段級位規定が公開されている。項目は、1.総則、2.資格、3.審査および認定方法、4.審査料(手数料)および登録料、5.公認手続き、6.審査認定基準 の6つあり、最後の審査認定基準が昇段、昇級基準にあたる。段位には、実績評価一本の戦績段位と、指導歴、役員歴を考課する名誉段位があり、その基準は明確である。また、級位の基準が面白いので引用してみる。
1級 各種大会で40点取得したもの。 (40点)
2級 各種大会で30点取得したもの。 (30点)
3級 各種大会で20点取得したもの。 (20点)
4級 判定員又は判定員の指定する補助員を相手にフォアハンドロング、バックハンドロング、バックハンドショート、つっつき、フォアハンドカット、バックハンドカットのいずれかを5回の試技中にて 150球続けることができるもの。又、スマッシュ打法を修得していると判定されたもの。
5級 6級の資格を満した上、判定員を相手にショート、ロング、カットを5
回の試技中で70球続けられること。
6級 7級の資格を満した上、その他に1~12迄のいずれか1カ所を任意に選びサービスを(フォアハンド又はバックハンドの別は自由)20球のうち連続5球バウンドさせられること。(筆者註、1~12迄の位置を示した卓球台の図が上記でリンクしたページにはあるがここでは省略する)
7級 8級と同一条件にて5回の試技で5種類の選択打法のうち2種類以上を50球続けること。
8級 9級と同一条件にて5回の試技にて50球続けられること。選択する技はフォアハンドロング、バックハンドショート、つっつき、フォアハンドカット、バックハンドカットのいずれか1つ。
9級 10級と同一条件にて5回の試技にて30球続けること。
10級 硬式で判定員またはこれに準ずるもの(ロボットマシンも可)を相手にして45/分以上のピッチでフォアハンドロング、バックハンドショート、つっつきのいずれかの打法で10回の試技にて20球ノーミスで続けることができる。指導員がエラーした場合は試技をやり直す。指導員とでなく自分達同士の判定員の見ている前で行ったものも有効。(試技の相手は送球機械でも可)
ご覧になればわかるとおり、3級から上は、全くの実績評価であるのに対して、4級までは完全に能力評価一本であり、それぞれの級で求められる能力も明確に言語化・差別化されている。つまり、卓球の級位制度は、能力評価だけの部分と、実績評価だけの部分の結合体である。
ひるがえって、将棋のほうはどうだろうか。日本将棋連盟の
子供将棋スクール初心者案内によれば、同スクール内での昇級規定は以下のようになっている。
1~3級へ 7連勝か10勝3敗
4~6級へ 6連勝か9勝3敗
7・8級へ 5連勝か8勝3敗
9・10級へ 4連勝か7勝3敗
11級~15級へ 3連勝か4勝1敗
これは要するに、入門段階から、勝ち負けだけが上に行く唯一の基準、実績評価一本やりの体系である。ただし、くせものなのは、「その他には、講師認定によって昇級する場合もございます」という一文がはいっていることである。講師認定によっての昇級の場合、講師は、いったい何を基準として昇級させるのであろうか。筆者の想像だが、こどもの対局内容を講師が見ていて、次の級に上げてもよい能力を発揮している将棋を指していれば、規定の成績を上げられなくても、昇級をさせているのではないだろうか。そうであるとすれば、講師の頭の中では、各級で身についているべき将棋の能力が想定されていることになる。
卓球のように、各級で身についているべきスキルを言語化することはできないだろうか。たとえば、駒の並べ方、動かし方を覚え、初めと終わりの挨拶ができ、攻め方に持ち駒のない一手詰めの詰将棋が解けたら15級、攻め方に持ち駒のある一手詰めの詰将棋が解ければ14級、というような具合である。これができれば、指導や級位認定をすることがはるかに簡単、というか客観的、体系的になり、専門棋士以外の指導者の便宜に寄与するところ大と考える。
現在、フランスとドイツの将棋協会で、認定証のようなものを発行すると子どもの普及につながるのではないか、という議論が始まっている。各級で身についているべきスキルセットが明確になれば、それに従って認定証も発行しやすくなり、海外で将棋の普及に尽力されている方々にとって朗報となるのは間違いがない。
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