将棋の海外伝播などについてのブログ

海外ユーザー向けに英語版のiPhone/iPad 用の「どうぶつしょうぎ」アプリのダウンロードが可能になった

　５月２８日の株式会社ライブログのプレスリリースによって、英語版もある「どうぶつしょうぎ」が iPhone/iPad 向けに出されたことを知った。

• iPhone、iPod touch、iPadで遊べる「どうぶつしょうぎ」販売開始

株式会社ライブログ（神奈川県横浜市）は、iPhone、iPod touch、お
よびiPadで遊べる「どうぶつしょうぎ」の開発を完了しました。日本
語版、英語版を同時にリリースしましたので、英語圏の方々でも遊ぶ

ことが可能です。

英語のボードゲームポータルサイトの Boardgamegeek の該当スレッドにダウンロードできるページを投稿してみたところ、早速何人かダウンロードして試してみたらしく、情報交換が活発である。「ＡＩと対戦できるのか？」「ＡＩのライオンが取れるところに動いてきたのでびっくりした」などの質問や感想がある。「どうぶつしょうぎ」と将棋のルールは微妙に違い、「どうぶつしょうぎ」ではライオンを取って終局するゲーム（他に、トライで終局するというルールも存在するが）なので、ライオンを相手の取れるところに動かす手は禁じ手にならないのだが、どうやらチェスや将棋のルールとの混同があるようである。

• Let's Catch the Lion! seems to have become available for iPhone/iPad | Let's Catch the Lion! | BoardGameGeek

なお、株式会社ライブログが解説している twitter アカウントの catch_the_lion によれば

• Twitter / doubutsushogi: 販売三日目のどうぶつしょうぎ。海外でも少しずつ売れ始 ...

販売三日目のどうぶつしょうぎ。海外でも少しずつ売れ始めました。実績が出たのは米国、オーストラリア、英 国、ベルギー、オーストリアなどです！海外にもどんどん紹介されると嬉しいです。

とのことである。

「ハチワンダイバー」１５巻を読んで

　将棋の普及振興に功績をしるされた方として第３４回将棋の日に日本将棋連盟から感謝状を贈られている柴田ヨクサル氏のマンガ「ハチワンダイバー」１５巻の第１５２話「お勉強の時間」から第１５６話「”大和”な女」に、そよが「世界隊」と称される外国人の将棋指しの５人組と対戦する描写が描かれている。そこで受け売りの形で示された鬼将会の将棋世界に普及に関する考えが興味深い。その部分のセリフを抜書きしてみる。

• 世界普及という点では囲碁に遅れをとっている将棋である　囲碁人口約５０００万人　将棋人口　約１０００万人。
• ではなぜ将棋は普及しにくい
• 白と黒の囲碁と違い…漢字だからか？…いや…まず「チェス」という大ボスがいるからだ
• 「チェス」の普及率はベースボール級
• チェスプレーヤーにしてみれば将棋など東洋のボードゲームのひとつだとでも思っているのだろう　象棋（中国）チャンギ（朝鮮）将棋（日本）
• チェスは取った駒を使えないので強いもの同士が対戦すると引き分けが多くなる
• 将棋は取った駒を使える
• 悪いがチェスさん将棋君の戦略性の深さはアンタの何百倍だ
• 「日本の中だけの将棋に未来はない」
• 何年かかるかわからないが「将棋」を…”世界の将棋にする”
• 世界中に将棋が普及したとする　将棋好きの異国の少年が日本にやってくる…とする　少年はその辺の道場でもまるで勝てず日本の層の厚さを知る　そして少年はあらためて感じる　将棋の聖地へやって来たんだ
• 野球選手がアメリカのメジャーリーグを目指すように世界中の将棋指しが日本を目指す！！！そんな”将棋世界”をつくる普及の先兵が彼らだ
• 神か悪魔が乗り移ったような伊藤宗看・看寿の詰将棋はダビィンチの「モナリザ」やゴッホの「ひまわり」にも劣らない芸術作品だ
• 韓国　中国が本気で将棋を指し始めたら日本を越えるぞ

上記は概ね筆者の考えと同じだが、チェスで引き分けが多くなるのが取った駒を使えないことと因果関係がはっきりとあるのかどうかと、将棋の戦略性の深さがチェスの何百倍にもなるというのはやや疑問である。チェスの場合、引き分けが多いのは、定跡の発展が多分将棋よりも進んでいることと、トーナメントの進行の方式上、対局者の一方、もしくは双方が最初から引き分け狙いで指す場合があることなどもその要因と考えられるのではないか。また、戦略性というのは定義があいまいな概念であり、マンガのなかの世界でならばよいが、チェス好きの人に「将棋の戦略性はチェスの何百倍」ということを持ち出すと、時間だけを消耗する議論を招きやすいので、筆者としては「戦略性」という言葉を用いず、「駒の数と升目が多く、その上に、持ち駒が使えるので、駒の総数が減らず手の選択肢がチェスより多い。また、終盤になっても選択肢の数が減らず、むしろ増えていく」という説明をするようにしている。将棋の戦略性を説明するには、私見では玉の囲いにかける手数と固さの関係、および攻撃陣を整える手数とのバランスについての説明をするのが不可欠だが、それをある程度の将棋の対局経験がないチェスプレーヤーに理解してもらうのはほとんど不可能と考えている。（チェスでは囲いにあたるとされる Castling をする際、基本的には King は一手しか動かさない。将棋の場合は玉の動きだけで１手の囲いから４手（穴熊など）までのパターンがあり、多彩である）。

　ともあれ、人気の将棋マンガ「ハチワンダイバー」の中で、上記のように将棋が世界に普及していくロードマップが示されたのは興味深い。また、”ダビィンチの「モナリザ」やゴッホの「ひまわり」にも劣らない芸術作品”とされた煙詰については、既に HIDETCHI 氏が Smoke Mate として初手から詰み上がりまでを鑑賞できる英語のビデオを作製していることを最後に付け加えておきたい。

名人防衛を The Mainichi Daily News が英語で報じた

　The Mainichi Daily News が羽生名人の名人防衛を英語で報じた。

• Shogi champ Habu collects 3rd straight Meijin title

大島七段と山本五段のペルーでの予定がスペイン語記事で出ている

　大島七段と山本五段がペルーで将棋のコンファレンスを複数回行うようである。スペイン語の記事がネット上に出ている。

• Jugadores profesionales de Shogi dictarán conferencia - Generaccion.com

• IPD y Embajada de Japón realizarán demostraciones del Shogi - Ajedrez Japonés en Lima

筆者が機械翻訳を使って英語にしたところでは、現地で場所を変えて3回将棋のコンファレンスが行われるとのことである（22日の午前１１時にJinaiペルー日本文化センター、23日の午前10時からMirafloresソシアルクラブ、26日の5時からペルーカソリック大学の東洋センター？の3回）。在ペルー日本大使館が、ペルー内の様々な団体と協力してこのイベントが企画されたようだ。

日英バイリンガルマガジンの「ひらがなタイムズ」最新号に「どうぶつしょうぎ」の記事

　月刊で発行される日英バイリンガルマガジンの「ひらがなタイムズ」の最新号（6月号）に、どうぶつしょうぎを紹介する記事が載ったようだ。雑誌媒体のため、全文は雑誌を入手しないと読めないが、そのさわりの部分が PDFで読めるようになっている。

• 日英バイリンガルマガジン「ひらがなタイムズ」―最新号案内
• サンプル記事(PDF)

　記事は、「どうぶつしょうぎ」が生まれた理由をしっかりと日英両語で説明しているので、結果的に「どうぶつしょうぎ」だけでなく、将棋のよいパブリシティにもなっている。

「ひらがなタイムズ」はどんな人に読まれている雑誌なのだろうか。ホームページに以下の記述がある。

• 日英バイリンガルマガジン「ひらがなタイムズ」―マガジンガイド

1986年の創刊で、現在100ヶ国以上の人に読まれています。読者層は20代、30代が主体ですが、近年は国籍を問わず中高年の読者が急増しています。

この通りだとすれば、100国以上の人に「どうぶつしょうぎ」および将棋について書かれた記事が届くことになる。

また、「ひらがなタイムズ」のホームページを見ると、雑誌の販売だけでなく、日本在住の外国人と日本人の交流パーティを東京で毎週金曜の夜に、大阪では不定期に開いているようである。

• ひらがなタイムズ国際交流パーティ/東京＆大阪

　筆者はそういう場に居合わせたことがないのだが、twitter 上では時折、「どうぶつしょうぎ」が「婚活」に使えるというつぶやきを目にする。実は「婚活」にだけ特別に有効というわけではなく、要は初対面の人間が打ち解けるための道具立てとして、ルールが一目瞭然でわかりやすく、盤面の升目と駒数が少なく、イラストが可愛い「どうぶつしょうぎ」が非常に優れているということのようだ。本誌の記事で紹介されたのだから、「ひらがなタイムズ」の国際交流パーティの場で「どうぶつしょうぎ」が楽しまれるようになればいいなと思っている。

このところ流れている将棋関係の英語のニュースを読んで思ったこと

　この数日間、英語でも shogi が含まれたニュース記事が Google News で拾えている。

• Pro shogi player Kato ordered not to feed stray cats at condo(Kyoto News)
  
• 'Shogi' pro fined for feeding stray cats(Japan Times)
• Former shogi great must compensate neighbors over stray cat doings - The Mainichi Daily News
• Women's shogi star Hayashiba to return to game after 15-year hiatus - The Mainichi Daily News

加藤九段の民事裁判の地裁判決のニュースと、林葉直子氏の日本レストランシステム杯参加のニュースが英語になって発信されている。加藤九段のニュースでは、共同通信で英語でニュースが配信されたので、それを Japan Times が受けてカバーし多くの英語で日本のニュースを読んでいる方に届くという展開になっている。６８期名人戦関連のニュースは、筆者の知る限り報道機関が英語のニュースにしたのは第６８期についてはまだ無い。

　こういう突発的なニュースだけでなく、タイトル戦の模様が定期的にオンラインメディアで英語でニュースとして流れていけば、今は昔と違って YouTube に HIDETCHI さんが発表している一連の英語ビデオのようなすぐれた教育的コンテンツがあり、iPhone/iPad には日英二ヶ国語対応の将棋ソフトが複数リリースされており、興味を持った方がより詳しく、深く知り、対局をしてみることができる環境がかなり整ってきているので、将棋が海外に広まるのはもっと加速していくはずと思っている。