2005年を振返ると、今年は海外のいくつかの有力なゲームサイトに将棋が加わったエポックメーキングな年だったように考える。これにより、海外で気軽に将棋を楽しむ人が増える環境が整ってきたといえるが、ひとつだけ押さえておかなければいけない点がある。それは、海外で漢字駒を使わずに将棋を覚える人が今後飛躍的に増える可能性がある、ということだ。
左は、チェコの Turn-based のゲームサイトの将棋のデフォルトの画面である。駒の英文字は、駒の名称を英語にしたときの頭文字が使われていて、 歩がP(Pawn)、香がL(Lance)、桂がN(kNight)、銀がS(Silver)、金がG(Gold)、飛車がR(Rook)、角がB(Bishop)、王(玉)がK(King)と表されており、同時に、駒の動ける方向が視覚的にすぐにわかるように矢印などが使われている。これらの駒の表示は、John Fairbain氏の"SHOGI FOR BEGINNERS"(1984)でwesternized setとして紹介されたものと同じである。
右の図は、kurnik.org のデフォルトの将棋の画面である。ここでは、金銀香以外の駒はチェスの駒と同じ図柄が使われ、香は槍の図柄、金銀は動ける方向を線で表した駒が使われている。
筆者は両方のサイトで、ほぼ毎日将棋を指しているが、こちらは漢字の駒を選んで使っているので全く違和感を感じないで指せるのだが、相手は必ずしも漢字の駒を使っているのではなく、ここで紹介をしたような駒を使っている場合が多い(どちらの駒を使っているかは相手に聞かないとわからない)。
かつて shogi-l で将棋が海外であまり普及がすすまないのは、初めての人が漢字の駒を見た瞬間に自分にはできない、覚えられないと思ってしまうからでは、という議論がされたことがある。その議論は具体的なデータが無い議論だったので賛否の結論は出なかったが、Brainking.com, Kurnik.org の出現により、どうやら向こう1年ぐらいの間にその議論の結論が出そうである。特に筆者の体験では、Kurnik.org のユーザはこどもや若者が多く、また、人口の大きさを考えると日本の Yahoo Games 以上の人気サイトということになるので、そこでどのように将棋が覚えられていくのか非常に注目される。
ネット上の世界では、使っている駒の違いはあまり問題とならないが、将来、西洋風の駒でしか将棋を知らない強豪が現れ、リアルの世界で将棋大会に出てくるようになると、漢字の駒を使うのか、それとも、西洋風な駒を使うのかが問われる場面も出てくるのではないかと考える。それが将棋界にとって望ましいことではないなら、漢字の駒が使われるようにするための意識的な情報発信を今のうちから継続的に行うことが必要である。
しかし、漢字の駒の使用は将棋の本質なのであろうか。たとえば、花札であろうが、トランプであろうが、ルールがおいちょかぶならば、どちらを使ってもそれはおいちょかぶというゲームをしていることになるはずだ。であれば、どんな駒を使おうが、ルールが将棋であればそれはやはり将棋ということになるのではないか。漢字の駒を使わない将棋など想像したくない人も多いかもしれないが、その点こそが、海外のインターネットのゲームサイトで将棋ができるようになったことが突きつけているひとつの現実なのだ、と考えざるをえない。
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