daichanの小部屋の記事、海外普及 - daichanの小部屋 のコメント欄に以下のようなコメントが寄せられている。
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これに関連して、将棋の駒を英語でどう呼ぶかについて、日本将棋連盟の刊行物やプロ棋士の発言、プロ棋士が関係した英語による棋書を中心として、筆者が把握しているところを簡単にまとめておきたい。
青野九段の著作を元にした、John Fairbairn 氏の翻訳による日英対訳の棋書(「ここを直せば強くなる - Better moves
for Better Shogi」(1983年)「将棋定跡のカギ - Guide To Shogi
Openings」(1983年)の英語部分では、段をアルファベットで表し、駒の名称はチェスの用語を拝借した形の英語名称であった。
日本将棋連盟が 1985年の5月に最初の印刷をした英語による将棋の紹介パンフレット「将棋SHOGI」という印刷物がある。これは、将棋親善大使にもなった野球の井川選手が米国で配ったものと思われ、現在も日本将棋連盟で頒布をしているパンフレットのはずである(パンフレットの写真は、”Igawa Game”流行るかな? - おおた 葉一郎のしょーと・しょーと・えっせい で見ることができ、同ページで写真をクリックすると大きく表示される)。このパンフレット上で使われている図面は、筋をアラビア数字、段を小文字のアルファベットで表したものである。また、駒の名称については以下のように、Englsih と Japanese が併記されている。
Character |
English |
Japanese |
Symbol |
玉 |
King |
Gyoku |
K |
金 |
Gold |
Kin |
G |
銀 |
Gin |
Gin |
S |
成銀 |
Promoted-Silver |
Nari-Gin |
Sx |
桂 |
Knight |
Kei |
N |
成桂 |
Promoted-Knight |
Nari-Kei |
Nx |
香 |
Lance |
Kyo |
L |
成香 |
Promoted-Lance |
Nari-Kyo |
Lx |
歩 |
Pawn |
Fu |
P |
と |
Promoted-Pawn |
Tokin |
Px |
飛 |
Rook |
Hisha |
R |
竜 |
Promoted Rook(Dragon King) |
Ryu |
Rx |
角 |
Bishop |
Kaku |
B |
馬 |
Promoted Bishop |
Uma |
Bx |
上記を見てわかるように、日本将棋連盟の英語パンフレットで、歩を Pawn, 飛を Rook, 角を Bishop というように、チェスの用語を借用する形で表している。
Tony Hosking 氏の The Art of Shogi(1996) では、駒の名称は、やはりチェスの用語を拝借した形の駒の英語名称が使われているが、盤面の升目を表すのには、アラビア数字を筋にも段にも用いるようになっている。(日本で普通の方式は、アラビア数字が筋を、漢数字が段を表している)。この方式は、羽生名人の日本語原稿を高橋和女流三段が英訳したのを元にして Tony Hosking 氏が出版した Habu's Words (2000) に受け継がれている。
「将棋世界」誌の2003年4月号(だったと思う)で、高橋九段が「ずばり提言 将棋に、日本語に誇りを」で以下のような問題提起をしている。
英語に親しむようになって数年。いつまで経っても、ビギナーの域を抜けないのには困ったものだ。将棋の英語に関しても多大な熱意を持ってご教授くださる田村高光さんの元、少しずつではあるが身についていってくれたらと思っている。
右も左もわからなかった今までは、それまであったものを、ただ受け入れてきただけであったが、こと本職については、様々な点でこだわりを持つようになってた。最も残念に思うのは、駒の表現だ。
例えば、歩・桂・飛などは、それぞれ Pawn,kNight,Rook のごとく、置き換えられている。しかし、これらはあくまでもチェスの駒であって、将棋の駒ではない。
これが私の主張である。
駒の場合は特に、英語の世界の中に、そのまま漢字を持ち込んでもいいのではないか、とさえ思っているが、どうだろうか。それが難しいことであれば、最低限、Fu, Keima, Hisha とすべきであろう。
ただし、この際、具体的な説明を求められた場合には、簡単な説明ができるくらいには、英会話力をつけたい。
角ならば "It looks like Bishop of chess, but it can bepromoted" とか(これが正しいかどうかは自信なし)。
ほかにも、戦法や囲いの名称なども、固有名詞としてそのまま生かしたい。
他国の出来事などを、何の憂いを持つことなく吸収してしまうのが日本人の長所であり短所ともいえる。
なんでもかんでもチェス用語にあてはめてしまっている現状は、せっかくの世界に誇るべき文化(将棋)が、あまりにも異国の文化(チェス)に迎合しすぎている気がしてならない。
また、英語には「お願いします」に相当する言葉はないようだ。(抽象的で実に日本語的なので)。ゲームを始める前に交わす挨拶も特に決まってないようで、あえて言うなら "Have a goodgame" やら、" Good luck" などと言って、盤上で握手。
将棋においては、これは実にいただけない。礼に始まって礼に終わるのが将棋。老若男女、人種の隔てなく、あくまでも将棋では「お願いします」のひと言に、一礼をして始めるべきだ。
昨年の第2回国際将棋フォーラムの際は、3名の外国の方々との指導対局を受け持った。当初は、ここは日本、日本語で押そうと考えていたものの、念のため"Do you speak Japanese?" と尋ねたところ、全員が "No"。
しかたなく拙い英語で応対する羽目に。でも開始時の「お願いします」は、いっていただくことにした。うち1名の方は日本語自体の知識がほとんどないようで、繰り返し言ってもらって4度目にようやく様になった。直後に "Perfect!" と誉めたのはいうまでもない。
将棋も日本語も、世界に類を見ない味わい深いものだと思っている。訳す必要のあるところは訳し、ありのままであるべきは訳さずに生かしたい。
英語に触れれば触れるほど、外国の方々と接すればするほど、
母国語を大切にしていきたいと願う、今日この頃である。
同じ欄で、当時の「将棋世界」誌編集部は以下のように、谷川女流四段と田村氏のコメントを載せ、バランスを図っている。
現実策のチェス用語利用
高橋道雄九段の提言の根幹には、「将棋は世界に誇るべき日本文化」という考え方があるようで、将棋の国際普及の場で日本語の呼び方が定着するのは願ってもないことだ。柔道の世界では「有効(YUKO)」「指導(SHIDO)」などといった日本語が世界共通語になっている。しかし柔道界や囲碁界に比べて国際普及が発展途上の将棋界では、外国人に対して将棋の専門用語をそのまま押しつけるのは現実的に無理があるようだ。
将棋連盟の英語部講師を務めている田村高光さんは、かつて海外に赴任していたこと、外国人に将棋をよく教えたそうで、当時の体験談をこのように語った。
「外国人に将棋を教える場合、できるだけ障壁をなくすことです。でないと、興味を覚える前にやめてしまいます。その意味でこれはチェスに似ているという言い方はとても都合がいいんです。将棋に興味を持つ人はたいがいチェスを指しますから。将棋を普及する上で、チェス用語を利用することは現実的な方策だと思います。」
数年前まで外国人専用の将棋教室を開いていた谷川女流四段も同じ意見だ。
「外国人に対してはなるべくやさしく教えるのが大事で、難しいとおもったらやめてしまいます。駒は角(カク)と飛車(ヒシャ)がいいづらいそうで、成桂(ナリケイ)と成香(ナリキョー)の区別も難しいそうです。ですからチェス用語を使うほうが教えやすいですね。ただ日本語が堪能で将棋にもっと興味をもった方には、本来
の専門用語になじんでもらいたいとは思いますが。
あの教室では対局開始時に私のほうから"お願いします" と挨拶しましたが、みなさん"サンキュー"とか"ありがとう”と応えてくれて礼儀正しかったですよ。逆に日本人が見習うべきこともありました。とかく私たちは負けるとがっかりしてうなだれてしまいがちです。でも外国では勝者の力量を素直に認める風潮があり”勝ったあなたが立派だ”という態度で、敗者の方がにっこり笑って手を差し
出すんです」
高橋九段の提言は大変もっともなことだ。だが将棋の国際普及を進めるうえで当面、田村さんや谷川四段が語る事情も理解する必要があるだろう。<<文責・編集部>>
高橋九段は今年の4月に『高橋道雄の「超実戦」詰将棋』という本を出している。詰将棋の本なのだが、実は、欄外に英語の将棋用語をまとめていて、英語の将棋用語集としても使えるようになっている。その「はじめに」で九段は以下のように書いている。
また、本書では欄外に注目を!
将棋用語の英語バージョンである。
私自身、英語に親しむことが好きで、棋士仲間で英語部を作り、数年間活動したこともあった。
さすがにペラペラの道は遠いが、おかげで外国のかたとも知り合いになることができた。
さまざまな事柄で、国際化が叫ばれている現代では、語学に取り組むのも大切なことだ。
これから英語を始めてみようという方は、本書をそのささやかな第一歩にしていただければ幸いである。
将棋用語の英訳は、チェスの用語を応用するケースが多い。将棋での言い方を覚えておけば、必然的にチェスをプレーするときに使えるので、一挙両得となるわけだ。
英語の将棋の本は、いくつか出版されてはいるものの、単語集のようなものは今までなく、自著でそれが実現できて大変うれしく思う。
2009年の「将棋世界」9月号の「英語で将棋を伝えよう」という早水女流二段の記事では、2005年度に国際交流基金の日本文化紹介のための専門家派遣事業でトルコに派遣された経験もある堀口弘治七段が、今年都立白鷗高校の正課になっている将棋の授業の講師を務め、第8回の授業「英語で将棋を伝えよう」について取材をしたのがレポートされている。その記事から一部引用する。
堀口七段がなんと英語で講義をするという。私は第8回の授業「英語で将棋を伝えよう」の取材に白鷗高校を訪れた。
将棋の授業をサポートしているアマ二段の鈴木秀光教諭に案内されて5年生の教室へ。袴姿の堀口七段が教壇から「グッド・モーニング!」と生徒たちに挨拶。思わず「英語なの?」ととまどう生徒に「ノー・ジャパニーズ・トゥデイ」と笑顔で注意。きょうはすべて英語。日本語は禁止。堀口七段は奨励会時代から英語を徹底的に勉強しており、ネイティブ並みの発音は本物の英語教師のよう。
定員いっぱい15人の生徒が着席し、授業が始まった。女子も数人おり、真剣に耳を傾けている。まずは「玉」「歩」などの駒の名前を「キング」「ポーン」などのチェス用語で説明。「チェスは英語圏の人々なら常識。入門者にはチェス用語が最良の方法」なのだという。
今回、筆者が日本将棋連盟のネット委員会の方の働きかけに応じて王座戦での英語の中継画面への実験に協力するのを決めた大きな要因のひとつに、高橋九段が2003年の「将棋世界」誌で主張されたことを、『高橋道雄の「超実戦」詰将棋』では変えていると受け取れたことがあることを記しておきたい。
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